唐澤剛「ごちゃまぜで進める地域包括ケア・地域共生社会」

第3回「顔と心と体セミナー」講演録

2021年4月24日

参加者:36名(会場8名、オンライン25名、後日DVD視聴3名)(1級資格者4名、3級資格者8名、4級資格者5名、当会正会員13名、一般3名、招待3名)

【経歴】

慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

1956年長野県安曇野市生まれ。1980年早稲田大学政治経済学部卒業。同年厚生省に入省。2012年厚生労働省政策統括官(社会保障担当)、2014年保険局長、2016年6月~2018年8月 内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部地方創生総括官。

2018年12月から現職。2018年10月より佐久大学客員教授。

2018年8月よりNPO法人日本医師事務作業補助研究会 顧問。

【講演録】

ーはじめに~地域包括ケア・地方創生・地域の活性化ー

 日本は今後一層の少子高齢化が進んでいきますが、その中で、人がその人らしく尊厳をもって安心して暮らせる社会をつくっていく必要があります。そのための方法は地域包括ケア以外にありません。地域包括ケアとは何かというのが本日のテーマです。

 併せて、地方創生ということにも触れます。少子高齢化の進んでいる地域、特に超高齢化が進んでいる地方の山村地域での生活をどのようにつくっていくかという大きな課題があります。人々が暮らしているそれぞれの地域が元気で、住んでいる人が生き生きと誇らしく生きていくために必要なのが地方創生です。地方創生というと、例えば工場の誘致とか、職場づくりということを考えるようですが、それだけではありません。地方創生の1つ目は地域経済の活性化です。これは工場の誘致もありますが、それだけではなく、農林水産業が元気になったり、中心市街地の活動が活発になるということにも関わります。そして経済だけでなく、安心できる暮らしも必要です。医療、介護、子育て支援、福祉、教育。こういう問題にもきちんと対応できている地域生活の確保が2番目です。そして3つ目が地域文化の振興です。歴史、文化、自然などに関係しますが、誇らしい郷土を創りあげる必要があります。

 地域の活性化にとって一番の問題は、若者、特に若い女性がどれくらい定着するかということです。若い女性の定着によって次の世代を育てることが重要なのですが、これがなかなか難しいのです。例えば、東京圏1都3県に日本中から若者が集まってきます。特に近隣諸県-静岡、山梨、長野、新潟など-から女性が集まってきます。ひとつには、地元に大学の選択肢が少ないからです。専門性を身につけたい、高いレベルの知識を得たいというと、やっぱり東京圏の大学を選ぶことが多くなります。また距離が近いので、頻繁に親元に帰ることができ、両親も安心です。でも、卒業したら東京圏に残ってしまいます。それは、働き甲斐がありかつ働きやすい職場、処遇も適正でその人の能力と関心に合った仕事が地方には少ないからです。そういうものを地方が提供して女性が定着しやすいようにしていく。特に移動性の高い20代よりも定着性の高い30代の女性を定着させることができれば地域の活性化につながります。

 それでは、本日の本題に入ります。今日お話しするのは以下の3つです。

(1)私が考える日本の課題

(2)地域包括ケアとは何か

(3)ごちゃまぜで進める地域包括ケア・地域共生社会

1.私が考える日本の5つの課題

 まず、私の考える日本の課題です。いろいろな課題がありますが、私は厚生労働省で長く医療や介護に携わってきましたので、その関連で次の5つの課題が重要だと考えています。

① 急速過ぎる人口減少

 日本の人口は、奈良時代には451万人、江戸時代に入って3,129万人、そして明治以降急激に増加して現在1億2,800万人になっています。日本はいま人口の頂点が過ぎ、毎年減り始めています。現在の1.44人の出生率(1人の女性が生涯に出産する子供の平均値)が今後100年続くと仮定すると、2110年には日本の人口は5,300万人-現在の半分以下-になります(図1)。人口が減ること自体が悪いというのではありません。人口が増え続けなければならないというのは、力で周辺の国々を圧倒しようとする覇権国家の発想です。日本がそういう国を目指す必要はありません。日本の目指す国の姿は、安全な社会、優しいおもてなし、深みのある繊細な文化、医療介護の素晴らしい制度などを備えて、それらを世界に発信していく国、その結果他国から尊敬される国を目指すべきだと思います。しかし、このままでは人口の減り方が急激すぎます。その結果、社会の制度がその変化に追いつかなくなってしまう可能性があります。そこで、出産と子育てを支援する仕組みをきちんとつくる必要があります。

 15歳未満の年少人口をみると、1985年くらいまでは2,000万人を超えて安定していましたが、そこから急激に減っています。1947~49年生まれの「団塊の世代」といわれる人達がいます。毎年200万人くらいの子供が出生して、1947~1951年の5年間で現在でも約1,000万人の人口になります。この人達が、25年後くらいに子供をもうけて、1971~1974年生まれの「団塊ジュニア」といわれる人口の山をつくっています。この山が1971~1975年の5年間で「団塊の世代」と同規模の980万人くらいです。すると、この人達が30歳くらいで結婚して子供をもうけるとして、人口の山が2000~2005年くらいに存在しないといけないのですが、それがありません(図2)。これが日本社会の大きな問題です。バブルが崩壊して就職氷河期が来て、また一方で非正規労働が増えて身分も収入も不安定な状態の中で、結婚や出産に困難を感じる人々が多くなったということです。 この問題は、団塊ジュニアの責任ではなく、日本経済や社会の責任であると言わなければなりません。

② 大都市の高齢者人口の爆発的増加

 東京の都心を取り巻く地域では、2040年には75歳以上の人口が2010年に比べて実数で2倍になる地域が非常に多いです(図3)。これは2025年には「団塊の世代」が75歳以上になることと関係しています。これらの地域ではいま保育園に入れない待機児童が大きな問題になっています。この若い世代中心の地域があと20年経つと他の地域と同じように高齢化の問題を抱えることになります。つまり、2040年には日本全土が同じように高齢化するということなのです。そこで、2040年の大都市の高齢化に向けて、どのようなケアを受けて暮らせる社会をつくるのかということが喫緊の課題になっています。保育園の待機児童の問題などを早く片付けて、この大都市の高齢化に対応しなければならないのです。日本全体からみると、待機児童の問題はかなり限られた大都市の問題なのです。地方では、若者の定着のために保育園を無料化したり、住宅補助を出したり、いろいろな工夫をしています。大都市でも、保育園問題は早く片付けて、次に来る高齢化の問題に備えなければならないのです。

③ 東京一極集中

 2019年の東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)への転入超過は約15万人です。そのほとんどが大学進学や就職のために転入してくる10代20代の若者です。転入しても一定程度が転出していけばいいのですが、そのようにはなっていません。アンケートによると、大学生の半数くらいは東京に残って日本全体を相手に、あるいはグローバルに働きたいと考えているようですが、その一方で、地方で安定した暮らしをしたいと希望する人達も半数くらいはいるようです。しかし実際には東京圏の3分の2の大学生が東京圏に残っています。これを解決するためには、地方に魅力的な仕事やその受け皿をつくることが重要です。 

 この超過する転入者はどこから来ているのか?住民基本台帳調査を特別集計したデータによると、東京圏により多くの人を送り込んでいる市町村は、大阪市や札幌市、仙台市などの大都市や県庁所在地なのです。これらの都市自体は転入超過ですので人口は減っていませんが、東京圏に多くの若者を送り出しています。例えば、札幌市でいえば、北海道中から人材を集めて転入が増えているのに、その中から東京圏に送り込んでいるということになります。つまり、1都市しか勝ち残らないトーナメント戦をやっているわけです。しかし、東京圏がいつまでも地方から若者を吸い上げることはできません。なぜなら地方が高齢化して若者が払底してくるからです。東京は、日本のグローバルな拠点として世界中から人材と資金を集め、地方はサービス業を中心に経済を活性化、繁栄させて安定した暮らしを築き、東京と地方が共存共栄するという国をつくっていかなければならないのです。

④ 大人手不足時代

 総務省の2018年の「労働力調査」の結果でみると、「卸売業・小売業」「製造業」の就労者はそれぞれ約1,000万人、「医療、福祉」は831万人います。2000年には、「卸売業・小売業」「製造業」はそれぞれ1,200万人くらい、「医療、福祉」は400万人程度でした。時代に合わせて産業間で人口が移動しているのがわかります。しかし、全体として労働人口は減っています。2015年に「団塊の世代」が65歳に達し、多くの人達が退職しているからです。この構造的な人手不足に対する対策は、第1に、女性や高齢者の就業の促進です。2つ目は、ICTやAI、あるいはロボットの活用。3つ目は、外国人人材の活用。これについてはいろいろな議論がありますが、外国人人材の活用なくして人手不足を補うことはできません。ただし、その数は限りがあり、大体30~50万人です。日本の労働人口の不足は300~500万人規模ですから、外国人を活用したとしても、一部をカバーできるにとどまります。女性や高齢者の活用は必須です。女性が働きやすい職場、子供がいても働ける職場、フルタイムでなくても高齢者が働ける仕事。こういうものが非常に重要になってきます。

⑤ 情報化やICT・AIの活用

 医療や介護は、情報化やICTやAIで生活と融合すると考えられます。京都大学医学部教授の黒田知宏先生(医療情報学)によると、ネットワークを介して病院が町に広がる、つまり医療が町の生活に近づいていくことになるというのです。この背景には高齢化があります。新型コロナウイルス感染症のオンライン診療を除けば、現在の診療体制は、病院の外来に来てくださいという通院医療と、もう動けなくなった人を訪問診療する在宅医療の2つから成っていますが、これからは、その中間の人達=自力では医療機関に行きづらいという人達、あるいは要介護の配偶者を介護しているために医療機関に行けないという人達が増えてきます。85歳以上のような人達です。そういう人達を対象とするのがオンライン診療です。このほかに、難病の子どもさんなどもオンライン診療の対象として考えられます。オンライン診療や訪問診療を自らはしない医療機関は、オンライン診療をする医療機関、訪問診療をする医療機関と協力して医療サービスを提供していく。それに介護も加わり、いろいろな職種の人達が、生活者の住まいを中心として、その人の生活に重点を置いた医療や介護のサービスを提供していくという形になっていくと思います。これが地域包括ケアということになるわけです。

2.地域包括ケアとは何か

 今後一層進んでいく少子高齢化社会において、地域包括ケアに関して次の2つの重要な目標があります。1 つは国民皆保険の堅持、2つ目が地域包括ケアの推進です。 

 日本の国民皆保険について簡単に触れると、人の一生は良い時も悪い時もありますが、たとえ悪い時でも誰でも必要な医療は受けられるようにしましょうという国民の合意が国民皆保険です。いつどのような病気になるかはわからないから、みんなで助け合って必要な人が必要な医療を受けられるようにしましょうという考え方に基づいているのです。これは必ずしも世界共通というわけではありません。ヨーロッパの国々は国民皆保険のような仕組みですが、アメリカにはそうした仕組みはありません。アメリカの医療保障の問題は、長い間大きな政治課題になっていて、現在オバマケアという取組みが行われています。またフリーアクセスも、日本の医療の特徴です。 

 地域包括ケアは、「地域の実情に応じて、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、その有する能力に応じて自立した生活を送ることができるように、医療、介護、介護予防、住まい、自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と定義されています。

 わかりやすく説明しましょう。

① 地域包括ケアの縦軸と横軸

 地域包括ケアを縦軸と横軸に分けて考えてみると、縦軸は、医療と介護がうまくつながっていること、つまり「医療介護連携」です。横軸は、地方創生の課題である「生活支援とまちづくり」です(図4)。中心にそれぞれの人の住まいがあります。上には、高度急性期や急性期医療があり、下には、回復期・慢性期医療(リハビ

リテーション)や介護施設や介護サービスがあります。縦軸の地域包括ケアは医療介護連携ですから、この流れがスムーズに動けばいいわけです。例えば、自宅で脳卒中で倒れて救急車で運ばれて、急性期病院に入って手術を受けます。そこからリハビリテーション

病院に移ってリハビリを受けます。脳卒中で入院し、退院して自宅に戻ったら、訪問診療を受けたり、訪問看護師さんやヘルパーさんに来てもらったり、デイサービスに行ったりして、今までと同じように暮らすことができればいいわけです。

 横軸の地域包括ケアは生活支援とまちづくりで、左側に、見守り、通院の付き添い、ごみの分別、預金の引き出し、役場の手続きなどがありますが、これらは暮らしていくために必ず必要なことです。医療介護連携ができれば、医療や介護は安心ですが、人は医療と介護だけでは暮らせません。ここに挙げたような生活支援が必要なのです。しかし、例えば、見守りといっても、1人暮らしの高齢女性の家に知らない人が訪ねて来て「お元気ですか。お変わりありませんか。」と言われても、玄関のドアを開けることはできないでしょう。これでは、見守りはなりません。知っている人同士でしかできないのです。このような見守りなどの体制を、東京などの大都市でどうやってつくっていくか。これが大きな課題なのです。

② 地域包括ケアの課題

 縦軸の地域包括ケアは、言い換えれば、地域における総合的なチーム医療・チーム介護ということになります。多職種の連携ネットワークの構築ともいえます。

 しかし、医療介護連携にはいくつかの克服すべき課題があります。先述のとおり、病気になって急性期病院に行って、リハビリを受けて、自宅に戻って訪問診療や訪問看護してもらったり、ヘルパーさんに来てもらったりして暮らすということですが、これが簡単ではありません。

 ひとつには、急性期医療とその後の医療・介護の考え方の違いです。急性期医療の目標は救命と治癒です。その後のリハビリや在宅医療や介護は、病気を治しながら生活を支えることを基本にしています。若い世代の患者ではこの違いはそれほど顕著にはなりません。病気が治れば会社に戻ってまたバリバリ働くというのが普通です。しかし高齢者は、今までと同じような暮らしを続けるためにどういう支援をするかということが重要になります。 

急性期病院の平均入院日数は12日間ほどです。つまり、急性期病院の医師や看護師などは12日間くらいしか患者を見たことがない人も多いわけです。急性期病院の医師や看護師などが、その患者が退院後自宅でどう 

いう暮らしができるかということを想像して適切なアドバイスをする、そのための知識や経験を得ることが必要です。そのようにして医療と介護の相互理解を進めることが必要なのです。

 もうひとつは、地域で患者の自宅を中心にさまざまな職種の人達がワンチームとなってサービスを提供する体制をつくることです。ところが、このさまざまな職種の人達はそれぞれ違う組織に属しているので、地域での支援のネットワークをつくるためにはそれぞれの人達がお互いに「顔の見える関係」(図5)をつくり上げておくことが必要になります。

③ 「得意」を持ち寄る

 心理学者の河合隼雄先生は、その書『こころの処方箋』の中で「自立ということは、依存を排除することではなく、必要な依存を受けいれ、自分がどれほど依存しているかを自覚し、感謝していることではなかろうか。依存を排して自立を急ぐ人は、自立ではなく孤立になってしまう」と述べておられます。

 また、東京大学先端科学技術研究センター准教授で小児科医の熊谷晋一郎先生は「自立と依存は、反対語ではない。依存先を増やし、分散させることが自立支援」(『BetterCare』2019年秋号)と述べておられます。

 人は誰でも一人で生きているわけではありません。誰かを頼って生きています。それが当然なのです。そして、そのことを自覚し、たくさんの人にいろいろな相談ができるチャネルを持っていることが必要なのです。例えば、在宅ケアを考えると、家族が全部やらなければならないと考えがちですが、そうではないのです。家族は家族の得意なことをやり、ロボットはロボットの得意なこと、介護のプロは介護のプロが得意なことをそれぞれがやると考えればいいのです。

 そして、地域包括ケアのネットワークが発展していけば、医療制度や介護制度の周辺にヘルスケアや種々の支援サービスのビジネスが生まれます。医療や介護のサービスだけではなく、孤立を防ぎ社会とのつながりを維持することがとても重要なのです。人間の健康にとって一番重要なのが社会とのつながり、人との交流だといわれています。社会参加を支援するメンタルメイクセラピストも、この観点から重要な役割を果たし得ると考えられます。

 そして、この地域包括ケアを世界に発信していくべきだと思います。これから東アジアの国々は日本と同じように少子高齢化を迎えます。韓国や台湾の出生率は日本より低く、また中国も一人っ子政策の影響から逃れることはできません。東南アジアの国々においても遠からず少子高齢化の波が及んできます。世界のどの国も少子高齢化の例外ではありません。どの国もこうした状況に対する処方箋を持っていません。少子高齢化のトップランナーである日本は、医療介護連携と地域包括ケアのモデルをつくり、これを世界に示すことで、尊敬される国になることができるのではないかと考えています。

3.ごちゃまぜで進める地域包括ケア・地域共生社会

 図6は、私の描く21世紀の世界です。この中で特に大事なのは、個性の大切さ、異質なものの相互作用、ごちゃまぜです。

 「ごちゃまぜ」とは何か?「ごちゃまぜ=ダイバーシティ×インターラクション」と考えています。多様な異質のものが集まって、それらが相互作用を引き起こす。認知症の人も、障がいのある人もない人も、高齢者も子どもも若者もニートも引きこもりの人も、あらゆる人達をごちゃまぜにして、自然に楽しくその力を引き出し、元気と活気のある地域、あらゆる人に開かれた地域をつくっていこうということなのです。そこで重要なことは、孤立を防ぐということです。実例を3つ挙げましょう。

 1つ目は、長久手の吉田一平市長が主導する長久手市と社会福祉法人「愛知たいようの杜」の活動です。雑木林の思想と私が名付けたものがあります。横浜国立大学名誉教授・理学博士の宮脇昭先生によると、「林をつくるために木を植えるときは、上下左右、どこも同じ木が並ばないように植えなさい、そうすれば絶対枯れない」ということです。同じようなものばかりが集まるのは不自然で、いろいろなものが集まるところに雑木林の強さができるのだと思います。吉田市長は「自然も雑木林も子どももお年寄りも生きとし生けるものがつながって暮らす」のがよいのだといっています。また「遠まわりするほどおおぜいが楽しめ、うまくいかないことがあるほど、いろんな人に役割がうまれる」ともいっています。そういうことを目指して「たいようの杜」という社会福祉法人をつくりました。通称「ゴジカラ村」と呼ばれています。午後5時から楽しい村にするという意味です。

 2つ目はシェア金沢です。雄谷良成さんが主導しています。雄谷さんは、社会福祉法人佛子園の理事長で、青年海外協力隊のOBがつくっている公益社団法人青年海外協力協会の理事長もやっていて、お寺の住職でもあります。シェア金沢は、金沢市のちょっと郊外にあって、学生向け住宅、サービス付き高齢者住宅、障がい児のための施設、さらに温泉とレストランや居酒屋があります。これはいわば地域密着型の生活テーマパークといえます。コンセプトは「ごちゃまぜと開放」です。誰が集まってきても排除しない。それによって地域への移住を増加させ、地元の雇用を確保し、健康ビジネスの拠点をつくり出します。高齢者・障がい児・学生などいろいろな種類の人達が集まって交流し、それぞれが好きなようにアクティブに楽しく暮らす。そういう「生涯活躍のまちづくり(日本版CCRC)」の拠点となっています。 

 最後が、茨城県の常陸大宮市の志村フロイデグループ。これは、志村大宮病院を中核とするグループですが、その理事長は鈴木邦彦先生です。中医協(中央社会保険医療協議会)の委員や日本医師会の常任理事などを務められ、現在は茨城県医師会の会長を務めています。鈴木先生は「中小病院は地域と運命共同体」(=町がなくなれば病院もなくなる)との考えから、人口3万9千人の常陸大宮市のまちづくりに努めています。医療や介護以外に、高齢者雇用、出産・子育て支援、看護学校による人材育成、医商連携による中心商店街の活性化などを進めています。目指すのは、地域密着型多機能病院です。これは、生活と融合する医療介護を行い、地域に密着して地域創生の拠点となる場所です。

 我が国の病院は、近い将来、広域高度急性期病院と地域密着型多機能病院の2つが主軸になると私は考えています。広域高度急性期病院は、広域をカバーし、高度で最先端の医療を提供する急性期の病院です。広域高度急性期病院は、医師、看護師など多数の医療スタッフが必要ですし、高度な医療機器などを備えていなければなりませんから、少数に集約されていきます。他方、100~200床規模の病院は、地域密着型の多機能病院になります。いろいろな人がそこに集まって交流して楽しい場所、毎日来たくなる場所になるわけです。2次救急医療や外来に介護サービスを加え、子育て支援や障がい者サービスも備え、さらに、生活支援やまちづくりの拠点となる人が集まる楽しい場所です。

 例えば、志村大宮病院は街の真ん中にあります。駅から数百メートルで、誰もが来やすい場所です。病院に隣接した敷地に高齢者住宅や特養(特別養護老人ホーム)などがあり、その広場で月1回地元農産物を販売する「楽市」が開かれます。駅の横にはコミュニティカフェがあります。志村フロイデグループのスタッフでつくる「フロイデ DAN」というチームが健康教室などの催し物を開いたりします。「誰もが気軽に集まって楽しいことを」というコンセプトです。「みんくる塾」というのは、フロイデ DANのメンバーが夏休みと冬休みに地域の子どもさんの宿題を見る取組みです。期間は3日間で、費用はお昼のカレー代100円だけ。冬には駅前でイルミネーションの点灯式などをやったりもします。これらは皆、町を元気にするためにやっていることなのです。 

これらの例で明らかなように、地域包括ケアで地域を元気にしていくには、次のような要素が欠かせません。

 ◎誰が来てもよい場所がある(開放)

 ◎その場所は無料である(開放)

 ◎いろいろな人が集まる(ごちゃまぜ)

 ◎高齢者や障がいのある人もない人も集まる(ごちゃまぜ)

 ◎お母さんと小さなこどもが集まる(ごちゃまぜ)

 ◎小中高生が集まる(ごちゃまぜ)

 ◎交流する(相互作用による化学反応が起こる)

 これは、縦軸に医療介護連携があり、横軸に生活支援とまちづくりがある縦軸横軸両方の地域包括ケアが必要だということを示していると思います。それは「人のつながりを取り戻す」活動であり、新しい総合的なヘルスケアなのではないかと思います。

 金子みすゞの詩『私と小鳥と鈴と』の中に「みんなちがって、みんないい」という一節があります。SMAPの『世界に一つだけの花』にあるように、「ナンバーワンにならなくてもいい。もともと特別なオンリーワン」だということです。

 「ごちゃまぜ」は自然で、楽しくて、イノベーションを生み、世界を救うと思っています。「ごちゃまぜの地域包括ケア」を世界に発信していきたいと考えています。

 メンタルメイクセラピストの方々も、ぜひ活躍をお願いしたいと思います。

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