パネルディスカッション「コロナ・ワクチン・医療体制:聞きたいことに何でも答える」

第4回「顔と心と体セミナー」パネルディスカッション採録

2021年6月26日

参加者:36名(1級資格者3名、3級資格者8名、4級資格者5名、当会正会員10名、一般3名、招待7名)(会場3名、オンライン32名、DVD1名)

パネリスト:藤井達也・松山幸弘

コーディネーター:鈴木倫夫

鈴木:第2部のパネルディスカッションでは、参加者からの質問を中心に進めていきます。

1.デルタ株とワクチンの効果】

鈴木:まず、最近はデルタ株と呼ばれる変異種の感染が拡大して制御が難しくなると言われていますが、先ほどのお話では、デルタ株へのワクチンの効果はそれほど悪くないという感じを受けました。いかがでしょうか?

藤井:日本で現在打っているワクチンは、ファイザー社かモデルナ社のものですが、どちらもデルタ株にはかなりの有効性があるというデータが出ています。今後さらに発生し得る変異種についてはわかりませんが、デルタ株までの変異種については、ワクチンは有効だと思います。

 

松山:米国からの情報によると、最近のコロナ死亡者のうち、ワクチンを2回打った人の割合は1%に満たないということです。このことは、ワクチンの接種によって重症化する確率が驚くほど減っていることを示しています。

2.集団免疫とは】

鈴木:大勢の人がワクチンを接種すると集団免疫が成立すると言われていますが、集団免疫についてご説明していただけますか?

藤井:集団免疫は、人口のある一定割合以上の人が免疫をもつと、感染患者が出ても他の人に感染しにくくなり、感染症が流行しなくなる状態のことを言います。この「一定割合」がどのくらいかということについて、ある計算式によれば60%とされています。ただ、この数字は、外出自粛による接触度合とか、ワクチンの有効性なども関係するので、確定的なものではありません。

ワクチン接種の進んだイスラエルでは接種率が40%くらいのところで感染率が下がったという情報があります。また、何のコロナ対策もしなかったスウェーデンで20%くらいの人が感染したら流行が止まったなどの情報もあり、何%くらいのワクチン接種率で集団免疫が成立するのかという点については、まだ解明できていません。今後データが出揃ってきてわかってくるのだと思います。


3.ウイルスの変異の確率は?】

鈴木:ウイルスは構造が単純で変異しやすいと言われていますが、どのくらいの確率で変異種が出現するものなのでしょうか?

藤井:流行していればいるほど変異種の出現する可能性は

高くなります。先ほどご説明したように、変異種は

ウイルスの増殖時のコピーミスによって生じますか

ら、ウイルスの増殖=感染があればあるほど、変異

種出現の確率は高くなります。変異種によって感染

力が拡大したり、ワクチンの有効性を下げたりする

ことがありますので、今後我々はこの変異種の出現

によってかなり振り回される可能性があります。だ

から、感染の抑制というのは非常に大事です。いま

はワクチンを打って、ある程度集団免疫を確立して

感染を抑えて、次の大流行までに治療法や医療体制

   について時間を稼ぐことが重要だと思います。

4.ワクチンを打つことを奨励されない人】

鈴木:ワクチンを打たない方がいいというのは、どんな人達なのでしょうか?

藤井:まず、本人の意思の確認できない人に打つのは、疑問です。例えば、寝たきりで意思表示のできない人に家族の意思で打つというのは、非常に疑問を感じます。ベッドで寝たきりで自分で動けない=パフォーマンスステータス4の人であれば、本人を守るためにワクチンを打つのか、あるいはその人に接触する人達がいろいろと注意して感染を防ぐのかということは、よく考えた方がいいと思います。容体がよくないときに打って急変したりすると、家族も医療者も非常に後味の悪い思いをします。腎不全、エイズ、がんの末期など、免疫力が非常に落ちている人についても同様です。

私はワクチンは打った方がいいと人に勧めている立場ですが、それでも自分の意思で打たないと言っている人に強制するのは、反対です。あくまで本人の意思による選択であるべきだと考えています。

また、アレルギーのある人は要注意です。過去に薬や食物でアレルギーを起こした人、あるいは花粉症などのアレルギー傾向のある人も要注意です。しかし、これらの人でも、1回目でアナフィラキシーを起こしたというような重大な問題のある人以外は、打っていいと思います。打った後の反応についても、医者が対応できる範囲内です。

松山:免疫疾患の患者などはどうでしょうか?例えば、膠原病のような?

藤井:膠原病については、当初、ワクチンの誘導する抗原が膠原病を悪化させるのではないかという懸念はあったのですが、実際に打ってみてそのようなデータは出ていません。

鈴木:免疫抑制剤やステロイド薬の服用患者などはどうでしょうか?

藤井:免疫抑制剤やステロイド薬を服用している人に打っていけないということはありません。ただし、これらの人については、ワクチンの効果が弱くなります。通常10できる抗体が35程度にとどまるようです。

松山:ところで、いま米国の医療機関では職員全員にワクチン接種を義務づけるという方向で動いています。これについては、テキサスかどこかで裁判があって、いまは個人の権利よりも公衆衛生の利害が大きいので、ワクチンの義務づけは合法だと認められました。

 

この問題は、近いうちに日本でも俎上に上ってくると思います。医療機関や職域の中でワクチンを打ちたくない人、何らかの理由で打てない人がいると思いますが、雇用問題も含めて、そういう人達をどのように保護するかという課題に対処しなければなりません。

5.短期的に重症者病床を増やすには】

鈴木:第5波が来たときに一時的にかなりの数の重症者病床が必要になると考えられますが、IHNのような事業体ができる前に、短期的に一気に病床を増やすというような方法はないものなのでしょうか?

松山:先ほど申し上げたように、厚生労働省直轄の国立病院、労災病院、JCHOの病院が8万床を持っているわけですから、そのうちのいくつかの病院を丸ごとコロナ専門病院にして、通常医療の患者さんを同じグループの病院や近隣の民間病院に移管すれば、コロナ病床は確保できます。要は、コロナ治療と通常医療を分離することが必要なのです。それをやらないで、規模の小さな個々の病院が45人の患者を受け入れているだけでは、多くの病床の確保はできないし、また院内感染のリスクを拡散しているだけです。

 

国際的な見地から見たとき、税金でつくられた国立病院などが全体としてセーフティネット機能を果たしていない、地域医療の全体最適が図られていないと言わざるを得ません。

2021年4月~10月の新規陽性者数の推移

 

セミナーは21/6/26のため、第5波はまだ発生していなかった

6.自宅待機中の患者が亡くなる事態】

N:最近、自宅待機の患者さんが亡くなるということがあるようですが、このようなことが起こる原因は何でしょうか?

松山:東京や大阪などの大都市には多くの民間病院があり、自治体病院や国立病院があるのですが、それぞれの経営主体が別なので、バラバラに運営されています。コロナ対応もそれぞれの病院がバラバラに対応しています。つまり、地域の医療資源が、全体最適の観点からコロナ対応のために再配置されていないのです。これは全国のどの都市にも当てはまる問題です。残念ながら、このような体制では、患者の数が増えれば、自宅待機者に適切な医療が提供できないで亡くなるという事例は増えていくと思います。

これを防止するには、松本市の例のように、知事がリーダーシップをとって国の管轄する病院も含めて協力を求めることが必要だと思います。地域で医療連携ができていないところでそのような協力要請をすれば、なぜ地域の自治体病院や国立病院が連携できないのかという実際的な問題点が浮かび上がってくると思います。いまはまだ、日本の各地域で医療機関同士の連携・協力ということの検討さえも十分にされていないという状況です。

藤井:医療従事者の立場から言うと、コロナで非常に怖い実態は、保健所が感染者を管理している、管理せざるを得ないという状況です。保健所の職員はほとんどが行政官で医者ではありませんから、重症化しそうなのかとか、エクモのような高度医療が必要なのかという判断がほとんどできません。

コロナについては、発熱して肺炎症状がなくてもCTをとると肺に影があるとか、血液検査をすれば重症化のマーカーが示されるなどのことがわかってきています。在宅でもホテル療養でも、患者の血圧や体温や酸素飽和度などをモニターして、この人は重症化しやすいとか、この人は早めに入院させた方がいいとかという情報をインテグレートして、いち早く医療につなげるというシステムをつくる必要があります。

いまは、保健所や医療機関を含めて、これらの対応がバラバラに動いているからうまくいかないのです。その原因は松山さんがおっしゃられたとおりです。

 

 

松山:先ほど紹介した米国のカイザーという民間医療事業体は、コロナ対応のために通常医療の患者を自宅に戻したりしましたが、その人達をモニターする機器を全員に無償で貸し出して、24時間モニターできる仕組みをつくりました。また1,200万人の被保険者のデータを一元管理していますから、異常の起こりそうな人、どのようなデータでその人の異常を判断できるのかを把握したうえで在宅モニターしています。要は医療情報をインテグレートし、デジタル基盤にのせて管理するということが必要なのです。

 

藤井:コロナに関して、いま松山さんがおっしゃったことに近いことができたのは和歌山県ですね。保健所が頑張ってほぼ全部の感染者を拾い上げて対応しました。

 

鈴木:松本や和歌山ができた理由は何でしょうか?

 

松山:知事や市長のリーダーシップでしょう。

 

藤井:トップダウンが必要なのです。特に有事には。

 

7.抗原検査キットの使い方】

N:いま抗原検査キットというのが市販されていますが、これはどん

なときに使うのがいいのでしょうか?

藤井PCR検査というのはウイルスの核酸というのを増幅させて感染を

判断するもので、感度が優れています。抗原検査は、インフルエ

ンザの迅速検査と同じ方式で、ウイルスの抗原を調べて感染の判

断をします。ただ、コロナの抗原検査の感度はインフルエンザよ

りも低いです。またメーカーやキットの種類によって精度がかな

り異なります。精度の高いものは医療機関でも利用しているよう

で、PCR検査につなげる前段階のスクリーニング(ふるい分け)

として抗原検査をやるようなところもあります。

抗原検査は、偽の陽性が結構多く、コロナ以外のアデノウイル

スとか風邪のウイルスでも陽性を示すことがあり、その後のPCR

検査では陰性だったというようなことも少なくありません。抗原

検査の感度や特異度を見極めたうえで使う必要があります。

 

PCR検査の代わりとして抗原検査で感染しているかどうか判断しようというのは、やめた方がいいと思います。

8.ワクチン接種と血栓症のリスク】

I : ワクチン接種では血栓のリスクが高いので、ワクチンを打ったら飛行機には乗らない方がいいと言わ

れているようですが、本当ですか?

藤井:可能性はあると思います。航空機の搭乗に関しては、エコノミークラス症候群で知られるように、狭い空間で動かずに同じ姿勢を保っていると足の静脈などに血栓(血の塊)ができやすいと言われています。正確には深部静脈血栓症といいますが、膝下にできた血栓はそれほど大きな問題にならないのですが、膝から上にできた血栓は肺に飛んで呼吸不全を起こしたりして、命に関わるような事態を引き起こすこともあります。血栓症は、ワクチンを打つ打たないにかかわらず、脱水、飛行機の搭乗、被災地で車中泊したときなどにも起きやすいものです。

アストラゼネカ社のワクチンは血栓症のリスクが指摘されています。このワクチンを打った後は飛行機の搭乗は控えた方がいいというのは、危機管理の問題としてあり得ることだと思います。ただ、絶対にダメとか、接種後〇週間は避けた方がいいとかいうようなデータは、いまのところ存在しません。

 

ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンでは、血栓のことはあまり言われていないので、問題ないと思います。

9.ワクチンを2度接種したらマスクは外せるか?】

鈴木:いつになったら元の生活に戻れるのかということなのですが、ワクチンを2度打ったらマスクをはずしてもいい

   ものなのでしょうか?

藤井:米国のCDC(疾病予防管理センター)は、ワクチン接種率が上がってきたところで、マスクをはずしてもいいと

   いうようなことを言っていたのですが、最近のデルタ株による感染者の増加に対して、やはり室内ではマスクを

   というふうに変わってきています。日本の専門家は、ワクチンを打った後でも感染予防のためにマスクは有効だ

   と言っています。

 

10.ワクチンを2度接種したら外での飲食は自由になるのか?】

鈴木:ワクチンを2度打ったら飲み会をやってもいいということにはなりませんか?

藤井:そのグループ全員がワクチン接種を終わっていて感染していないという前提条件が満たせればいいと思います。

   ワクチン接種を終わっていない人がいる場合や、発症していないが感染していてウイルスを拡散する可能性があ

   る人がいる場合は、感染するリスク、感染させるリスクがあります。

 

11.感染しているかもしれないときのワクチン接種】

A:数日後に職域接種が予定されています。PCR検査などはしたことがないのですが、もし感染していて無症状の陽性者だった場合、ワクチン接種による影響はあるのでしょうか?

藤井:感染者のワクチン接種は全く問題ありません。感染していても、また感染して回復した後でも、ワクチンは2回打ってください、打っても問題ありませんというのが、厚労省の立場です。ただ、接種会場で感染を広げてしまう可能性があるので、マスクをしっかりしてソーシャルディスタンスをとるという感染制御策はとっていただきたいと思います。

 

松山:友人のひとりが1回目の接種の後発熱して、副反応だと思ったら、感染していました。血中酸素濃度を測っていたら85まで下がったので、家族が救急車を呼びました。現在はもう回復しています。だから、接種を受けて発熱して陽性者だと後で分かったとしても、対応の仕方はちゃんとあるということです。そのときに自宅待機になったとしても、自分の症状データが把握できるような仕組みにしてもらわないと危険だということは言えると思います。

12.厳格なロックダウン・有事法制】

鈴木:海外の各国でやっているような厳格なロックダウンというのは

日本ではできないものなのでしょうか?

藤井:数年前に新型インフルエンザ等対策特別措置法というのが制定

されました。国が特定の施設を使用したり、医療者への医療提

供の要請をしたり、外出自粛を要請できたり、いわゆる私権制

限ができるようになったのです。これが今年3月にコロナにも

転用できるように改正されました。

マスコミはこれに対してかなりのアレルギー反応を示しまし

た。しかし、この特措法では実際に有事になったときに、たい

したことはできないのです。

    医療において、例えば、全員を病院に収容できないとか、す

   べての人に医療の提供ができないというような厳しい状況の中

   で、「命の選択」をせざるを得ないような場合があります。そ

   れについて、この特措法では何の担保もしていません。例え

   ば、高齢者よりも若い人を優先しなければならないとか、その場合の高齢者とは何歳以上なのかとか、そういう

   ギリギリの選択をせざるを得ない状況について、この特措法は何も定めていないのです。また、例えば、国内が

   著しく混乱して治安が悪化した場合に、自衛隊が治安維持に動く必要があることもあり得ると思いますが、その

   ようなことを定めた法律は日本にはありません。

そういう有事においてどう対応するのかという問題についてしっかりと議論し、法律にきちんと定めて、あらゆる状況に備えておくことが必要なのに、そういうことをマスコミが嫌がり、国民も避けて通っているというのが、いまの日本の現状です。この状態は望ましいとは言えないと思います。

松山:日本は戦後ちょっと平和過ぎて、危機管理というものを全く考えていないように思えます。医療機関にしても、税金で支えられている病院群が民間の私有財産の病院と同じような行動をしているのは、おかしいと思います。国の予算で支えられている病院は、危機に際して組織を根本的に変えてそれに対応することが当たり前でなければなりません。それができないという仕組みはおかしいのです。個々の医療者は献身的な人達がたくさんいるわけだから、そうした人達の努力が生かされるように仕組みを変えるべきだと思います。

鈴木:コロナを機会に、もう少し有事法制について突っ込んだ議論がされるといいと思いますね。尖閣問題などだけでなく、サイバー攻撃のようなものもあるわけですから。

松山:米国の大きな医療ネットワークは地域住民全体の医療のデータベースを持っています。そうした機関はデータ保護のために、自社のデータセンターがどこに所在するかということさえも秘密にしています。それほどデータのセキュリティに気を配っているわけです。翻って日本ではある医療機関のホームページが乗っ取られても気づいていなかったりしています。電子カルテのセキュリティについても、改めて見直す必要があると思います。

13.集団免疫が成立すれば元の生活に戻れるのか?】

Y:先ほど60%くらいの人がワクチンを接種すれば集団免疫が成立するというお話がありましたが、60%を達成すればマスクなしで生活できたり、外での飲食も自由になるということなのでしょうか?

藤井:おおよその理解としてはそれでいいのですが、免疫がない人同士のコミュニティというのがあります。例えば、学校であったり、ワクチンを忌避する人のグループなどです。そうした人達の中では感染が起こり得ます。イスラエルで起きていることがその典型です。6割というのがあらゆるコミュニティで達成されていれば、感染者がどんどん増えるということはないと言えますが、免疫のない4割の人達が集まれば、そこでは流行が起きます。

いま日本では65歳以上の人のワクチン接種率は80%を超えていますが、65歳未満で2回接種した人の割合は十数パーセントで、感染の拡大は主にその年代の人達の間で起こっていると言えます。

6割を達成すればあらゆる人が感染しなくなるという意味ではないということを理解しておいていただきたいと思います。

松山:感染者の数がいくら増えても、感染した人、特に重症者に対してきちんとケアができるという体制ができれば、人々の日常的な行動を制約する必要はないと、個人的には思います。新しく発生したとは言うものの、コロナがそんなにとんでもなく特殊な病気というわけではありませんし、死亡率も低いです。

 

個人的には、毎年ワクチンを打っていくというのが常態化するのではないかと思います。そのとき医療提供体制さえしっかりしていれば、それほど怖がる必要はないと思います。こういうことを政治がしっかりとメッセージとして出せていない、安心できる医療提供体制を構築できていないというのが問題だと思います。

鈴木:それでは、まだ皆さんいろいろ質問があるかもしれませんが、時間になりましたので、これで終了させていただきます。藤井先生、松山先生、どうもありがとうございました。

 

藤井松山:ありがとうございました。

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