「顔と心と体のケア」シンポジウム2017

-交通事故後の心のケア-

平成29年9月23日(土)東京・品川のコクヨホールにおいて、アクサ損害保険株式会社主催・公益社団法人顔と心と体研究会共催により、「『顔と心と体のケア』シンポジウム2017~交通事故後の心のケア~」を開催いたしました。

 

以下の方々にご講演いただき、また講演者によるパネルディスカッションを行いました。

 

【主催者挨拶】 ハンス・ブランケン(アクサ損害保険株式会社 代表取締役社長兼CEO)
【共催者挨拶】 内田嘉壽子 (かづきれいこ)(公益社団法人 顔と心と体研究会 理事長)
【講演】 原田保 (アクサ損害保険株式会社執行役員損害サービス本部本部長)『近年の交通事故の傾向等』
  古市佳央 (オープンハートの会 会長)『生き抜く力』
  小川令 (日本医科大学 形成外科学 主任教授)『傷はここまできれいに治る!』
  加茂登志子 (若松町こころとひふのクリニック PCIT研修センター長)『こころの傷とからだの傷』
  かづきれいこ 『見た目の社会学』
【総合司会】 堤信子 (フリーアナウンサー)

 

約200名の方にご来場いただき、大変充実したシンポジウムとなりました。

前列左からハンス・ブランケン氏、かづきれいこ、
後列左から加茂登志子先生、小川令先生、古市佳央先生、原田保氏、堤信子氏

【講演要旨】

●原田保氏(アクサ損害保険株式会社 執行役員 損害サービス本部 本部長)『近年の交通事故の傾向等』

この10年間で交通事故件数は約45%減少しており、重症の負傷者も同程度に減少している。重傷者の負傷部位は、頭・顔・腕・脚など露出部分が多い。保険会社は、治療と後遺障害について補償を行うが、その補償額は、身体的機能・精神的機能・外貌の順に低くなっていく。これは、補償が労働能力の低下に着目しているからである。この傾向は近年の判例で少しずつ変化しており、外貌に対する補償もやや手厚くなってきている。こうした中で保険会社の役割も、これまで単に保険金を支払っていたものから変化し始めており、今後は、顧客のニーズと利益に合致する商品やサービスを提供し、不幸にして怪我をした人々の社会復帰やこれからの人生をサポートする役割を果たすものになっていこうとしている。

●古市佳央先生『生き抜く力』

16歳のときのバイク事故で全身の41%に及ぶ大火傷を負い、外観が全く変わってしまった。不幸のどん底に突き落とされ、生きていても絶対に幸せになれないと思った。それが今、自分は世界で一番幸福な者だと思っている。この変化は、多くのやさしい人、自分を受け入れてくれる人、認めてくれる人との出会いによって起った。その出会いは、外観に対する差別と偏見の中で、あきらめずに勇気をもって外に出て、人に会い、人前で話をする機会を与えられることで得られた。外観が元に戻らなくても人生は終わらないこと、あきらめずにいれば幸せになれることを、自分自身を証人として人々に伝えている。そして、人に対して思いやりのある行動をとることを呼びかけている。

●小川令先生『傷はここまできれいに治る!』

現代の医療では、命を助けるだけでなく、いかにきれいに傷を治すかということが患者のQOL向上のために重要になってきている。形成外科医として、きれいに直すことを目標に、臨床・研究双方に全力で取組んでいる。皮膚は再生しないので傷跡が残る。しかし傷を目立たなくする技術は著しく進歩している。ケロイドや肥厚性瘢痕では、好発部位や高血圧や妊娠などとの関係を明らかにしてきた。体の動きによって傷跡に力がかかると悪化することも分っており、それに合わせていくつもの治療方法を開発してきた。早めの予防や治療が治癒期間を短くすることも分っている。治療には、自費診療になるものもあり、メイクアップセラピーという解決法もある。あきらめずに形成外科医に相談して欲しい。

●加茂登志子先生『こころの傷とからだの傷』

身体の傷は治ったのに、心の傷があって社会復帰できないということがある。これをトラウマと呼ぶ。人間の脳は、人間脳(大脳皮質)・哺乳類脳(大脳辺縁系)・爬虫類脳(脳幹部)の三層から成っており、トラウマ体験は、大脳辺縁系に固定された記憶が再体験症状(フラッシュバックや悪夢)を起こすことによって生じる。体験した危険な状況がいつまでも生々しく思い起こされるような心理状態のことである。これに対処するには、レジリアンス(自己回復力)を尊重するステップが必要になる。①身体を取戻し(回復させ)、②自然な感情と適応的な思考を取戻し、③対人関係を取戻して、初めて④フラッシュバックに対応(=記憶を取戻し整理する)ことができる。そのうえで⑤自分の時間とロードマップを取戻し、心の傷と体の傷を一致させる。心の傷に向き合うのは容易なことではないが、このようなステップを経て、危険な体験の記憶をアルバムの1ページに変えることができる。

 

●かづきれいこ『見た目の社会学』

子供の頃、冬になると顔が赤くなり、対人関係で辛い思いをした。30歳で心臓疾患が原因であることが分かり手術を受けて治った。それ以後メイクの勉強をして外観の問題を取扱っている。外観に問題を抱える人の辛さは他人にはなかなか分からない。どんなに小さな傷でも、本人にとっては他人の視線が気になって非常に辛い思いをすることがある。メイクによって本人が満足する外観をつくり、そのうえで悩みを聞き過去の体験を整理する。満足できる外観を自分で作り出せるようメイク技術を習得させ、それがいつでもできるようになることで、心が楽になる。そうすると、本人は傷が気にならなくなり出し、傷を受容することができるようになり、社会復帰に向って行く。隠すだけではない、元気な顔に見えるメイクをすることが重要だ。汗でも水でも取れないメイクによって普通の生活ができるようになり、QOLが上る。今後も医師と協力しながら、少しでも多くの人の社会復帰・社会参加に貢献していきたい。

【パネルディスカッション】

パネルディスカッションでは、参加者から提出された質問紙に回答することで行われました。心の傷が治る期間、どん底の状態にあるときに欲しい言葉、外観の問題と保険医療・自由診療、外観に問題がある人の社会復帰をサポートする保険などについて議論されました。

詳細につきましては、以下のPDFファイルをご参照ください。

パネルディスカッション.pdf
PDFファイル 205.3 KB

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