西田佐奈江「コロナ禍で選んだ道・介護施設の現場から」

第2回「顔と心と体セミナー」講演録

2021年1月30日

参加者:50名(会場5名、オンライン42名、後日DVD視聴3名)(1級資格者4名、3級資格者10名、4級資格者7名、当会正会員18名、学生8名、一般2名、顧問1名)

【肩書】

メンタルメイクセラピスト🄬検定1級資格者

【講演録】

ーはじめにー

 私は、公益社団法人顔と心と体研究会の活動の大きな柱であるメイクボランティアに10年以上参加してきました。また、有限会社かづきれいこのリハビリメイク🄬の仕事もさせていただいておりましたが、現在は看護師として介護施設で仕事をしております。このコロナ禍でなぜ介護の仕事を選んだのかという経緯についてお話し、介護施設の現場が今どのようになっているかについてお伝えさせていただきます。

 小さい頃からナイチンゲールとマザーテレサに憧れて看護師になりました。大学病院や総合病院などで17年間勤務しましたが、最後の7年間は首から上の疾患の病棟で働いていました。病名でいうと、喉頭がん、舌がん、下顎がん、脳腫瘍など、診療科でいうと耳鼻咽喉科、口腔外科、脳神経外科などの病棟です。顔面などの隠せない場所に大きな手術痕や障害が残る患者様が多いというのが特徴です。そのような患者様の中には、外観が気になって気持ちや行動が変わってしまう方もいらっしゃいました。うつ状態になったり、引きこもりになったりという状態です。

 メイクに関しては、患者さんに好印象を与えるメイク、医療者として自分に合ったメイクという動機で、20代後半の頃からかづきれいこ先生のメイクをカルチャーセンターで勉強し、養成コースにも通い、30代前半で資格を取りました。リハビリメイク🄬の講師として病棟看護の経験が生かせればと思い、17年間かづき先生の会社で仕事をしてきました。

 外観の悩みというのは、目に見えるところの問題だけではなく、その裏に心の悩みがあるという奥の深い問題です。悩みを抱えていらっしゃる方々の心に触れられるという点で、リハビリメイク🄬の講師の仕事は大変にやりがいがありました。

 同時に、公益社団がNPOの時代から継続しているメイクボランティアも生きがいでした。休日に施設を訪問して高齢者の方々にメイクで笑顔を引き出すお手伝いをするという活動は、とても楽しみであり、自分が初心に帰り、リフレッシュされる癒しの時間でもありました。

1.介護の仕事に関わることになったきっかけ

 残念ながらこのコロナ禍で、2020年3月からメイクボランティアは中止になり、リハビリメイク🄬の講師の仕事もその年の4月から自宅待機ということになりました。

 誰もがつらい思いをする時期であったと思いますが、私自身は自宅にいて「こんなとき何ができるんだろう」と考え続け、「こんなときだからこそ何か人の役に立てることをしたい」という使命感のようなものを強く感じていました。

ちょうどそんなとき、国や都道府県がコロナ軽症者宿泊療養施設での看護師を募集していました。ぜひ応募したいと思い、自宅待機中にそういう仕事に就かせてもらえるか、かづき先生に相談しました。

 そのときのかづき先生との会話は忘れられません。先生は「私がもし西田さんのお母さんだったら止める。心配だもん。でも私がもし西田さんだったらやる。やるね。やるよ。……ただね、西田さん、家族がいて、学生の子どもさんがいらっしゃるんだから、家族に相談しなさい。家族がもしいいよって言ってくれたら、やってもいいと思う」っておっしゃったんです。母親のように心配してくださる温かい気持ちと、使命感で動きたいという私の気持ちに対するご理解。でも最終的には、自分だけの思いで突っ走らないで、家族と相談して、家族の理解と協力を得ることが必要なのだということを先生から教えられました。

 かづき先生との相談は、自分がやりたいと思う気持ちを確認させてもらったことにもなりました。家族の了解も得られたので、2020年4月下旬から6月下旬までの2ヶ月間、神奈川県の医療課健康管理班の看護師としてコロナ軽症者宿泊療養施設で仕事をすることになりました。4月中旬に宿泊施設の準備が整い、軽症者の入所が始まったばかりでした。業務内容は、電話やLINEによる入所者の方の健康チェック、入所フロアにお弁当を運んだりごみの処理を行うなどのことをする業者の方への防護服と、シャワーキャップ・ゴーグル・フェイスシールド・シューズカバーなどの着脱の介助・指導・確認などです。当直勤務をしたり、マニュアル作りに関わったりもしました。職場には、海外協力隊やNGOの災害医療の経験者などもいて、いろいろと勉強させていただきました。

 2ヶ月の契約期間が終了したとき、世の中の情勢を見て、やはり今、看護師として仕事をするのがより一層人の役に立てるのではないかと思い、再びかづき先生に相談したところ、「西田さんがやりたいんだったら頑張って」と後押ししてくださいました。家族も了解してくれたので、7月からは看護師として介護施設で働くことにし、今日まで7ヶ月が経ちました。

2.コロナ禍での介護施設の現状

 介護施設はこれまでメイクボランティアとして外から訪問してはいたのですが、介護現場そのものの知識はなかったので、ここからは、私が働いている介護施設とそこでの仕事についてご紹介します。

 私が働いている介護施設は3階建ての建物で、全員で140名の方が入居でき、50名程の方が通所(デイサービスの利用)できる施設です。介護現場では、24時間365日、お盆もクリスマスもお正月も関係なく、緊急事態宣言が出ても解除されても変わりなく、皆さんの生活が続けられています。介護士を中心にマンパワーで支えられているので、リモートとか在宅勤務というようなこともなく、人員の確保と働く人の緊張感、協力と助け合いが大切です。

 コロナ禍で、入居者のご家族との面会・外出は厳しく制限されており、家族宅への外泊はもう1年以上できていない状態です。オンライン面会も昨年末くらいから始まりましたが、完全予約制で一人10分程と、制限があります。

週に3日から1週間程のショートステイの方もいらっしゃいますが、そういう外部から入ってくる方々と継続的な入居者の方とは、部屋や食事をとる席も離れたところに指定されています。

 140人の入居者の方々は、介護度によって階が分かれています。1階はほぼ自立されている方々が入居されており、デイサービスと同じフロアです。会話もスムーズで、レクリエーションなどにも積極的に参加できる方々です。介護士さん達もいろいろ工夫しながら、ゲームや作品作りをしたりなどされています。

 2階では少し介護が必要な方々が入っています。車いすの方も多く、また見守りが必要な方もいらっしゃいます。

 3階ではベッド生活の方や「看取り」の方もいらっしゃいます。「看取り」とは医療を希望せずこの施設を終の棲家として最期の穏やかな時間を過ごしていただくという方です。

 私が介護施設を選んだ理由は、メイクボランティアで慣れ親しんでいたというのもあると思います。メイクだけでなく会話を通じて高齢者の方と関わることにやりがいと楽しさを感じていました。そういうコミュニケーションやカウンセリングの経験を生かせるのではないかと思いました。

 介護施設では、その方の介護度に合わせ、食べ物の形態を変えたり好みを聞き入れたりします。またお部屋にご家族の写真を飾ったり、書道作品を飾ったりなどして、それぞれの方がご自分の家で過ごされるのと同じように施設で暮らせるように取り組みがされています。

 残念ながらこのコロナ禍で書道の先生や音楽療法の先生が来られなかったり、また理容師さんや美容師さんの来る回数も減って、入居者の方は残念がられています。夏祭り、文化祭、クリスマス会なども例年どおりにはできません。ご家族の方をお呼びできないのですが、施設の職員の方々が余興をやったり、入居者の方の作品に投票して賞状を贈ったりなど、規模を縮小しても入居者の方が楽しめるように工夫しながらやっています。

3.介護施設でのコロナ対策

 コロナ禍でも入居者の皆さんがこれまでと同じように過ごしていただけるよう努力をしていますが、そのために私達職員が勤務に就くための健康管理、感染リスクの排除は厳しく行われています。

 いくつかの例をご紹介します。

 職場に着いて、まず職員通用口で手指のアルコール消毒をし、検温します。37.5度以上あったら、即時に出勤を停止し上司に報告します。外からウイルスを持ち込まないよう、それまで着けてきたマスクは捨て、職場用に新しいマスクを着けます。

 健康管理チェックリストというのがあり、勤務以外の日も、起床時に検温し、その日の体調を記録します。咳、鼻水、喉の痛み、頭痛、味覚や嗅覚の障害、強いだるさ、息苦しさなどがないかどうかについて、毎日記録をつけます。

こうした検温や体調の記録は、出勤日に、出勤日以外のものも含めて、各自がそれぞれの職場で記入します。これを各フロアの責任者が確認し、毎日午後1時までに本部に報告するということになっています。

 本部に集まった情報は各施設で共有され、また各施設は近隣の機関とも情報交換しています。例えば近くの小学校でコロナ感染者が出た場合、その小学校に通う子供のいる職員がいないかどうかや、近隣で感染者が出た場合、濃厚接触者がいないかなど、すぐに情報交換できるようになっています。

 勤務中は、食事の介助、おむつ交換、痰の吸引などがあります。おむつ交換では必ずエプロンと手袋をします。手袋は1回使ったら破棄するか、またはアルコール消毒をします。痰の吸引は一番飛沫を受けやすいので、必ずゴーグルかフェイスシールドをします。

 また午前と午後、決められた時間に椅子やテーブル、ドアノブなどを拭き取り消毒します。

 職員は昼の食事のとき、間隔を開けて座り、マスクを外したら会話は厳禁。休憩室でもマスクを外しての会話は一切禁止されています。

ーおわりにー

 ある晩、入居者の方達が夜勤の介護士さんにネイルをしてもらっていましたので、翌朝、「あら、きょうは爪がすごくきれいですね」とお声がけしたところ、自慢そうに、「そうなの!昨日の夜に担当の男の子にやってもらったの!」とおっしゃって、うれしそうに見せてくださいました。比較的元気な高齢者の方は毎日3回歯磨きのときは洗面台で鏡をご覧になるので、爪だけでなく、自分の髪型だったりお顔だったり、目に見える場所というのは話題にしやすいし、コミュニケーションをスタートさせる良いきっかけづくりなんだと改めて思いました。

 早くこのコロナが落ち着いて、また皆さんと一緒に、メイクボランティアで施設を訪問できるようになればいいなと思いながら、今は介護施設で高齢者の方々に寄り添う看護師として毎日を過ごしております。

 私がコロナ禍で介護施設で働くという選択をした経緯と、現在の介護施設の様子をお話しさせていただきました。ご清聴ありがとうございました。

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