二川浩樹「口腔衛生から抗菌材の開発・商品化・その将来性」

第5回「顔と心と体セミナー」講演録

2021年9月25日

参加者:44名(1級資格者3名、3級資格者4名、4級資格者4名、当会正会員7名、一般16名、学生7名、招待3名)(会場7名、オンライン37名)

【経歴】

広島大学大学院 医系科学研究科 口腔生物工学研究室 教授

歯科医師・歯学博士 日本補綴歯科学会専門医・指導医

1986年広島大学歯学部卒業、同大学大学院入学1990年歯学研究科修了。歯学部附属病院講師を経て、2005年広島大学歯学部教授に。2012年広島大学歯学部副学部長、2013年文部科学大臣表彰。主な業績として、虫歯菌の発育を阻止し、殺菌効果のある乳酸菌の一種「ロイテリ菌」の発見や、感染の拡大を防ぐ固定化できる抗菌抗ウィルス消毒薬「Etak®(イータック)」開発、むし歯菌・歯周病菌・カンジダ菌の発育を阻止する、殺菌効果のある乳酸菌の一種「L8020菌」の発見などがある。

【講演録】

ーはじめにー

 本日は、歯の健康、口の健康についてお話ししたいと思います。

 21世紀に入るときに、国民の健康増進の総合的な推進という目的のために、「健康日本21」という方針が、厚生労働省の外郭団体によって設定されました。このとき初めて、体の健康の中に、「歯の健康力」が組み入れられました。それから約20年経ちますが、この間に「歯の健康力」が介護予防力、スポーツ力、子どもの健康力、メタボリックシンドロームの克服力、高齢者の食の選択力などに強く関わるという研究結果が出ております。また、がんの克服力や心の健康力にも関連があるのではないかという研究が進められています。

 先ほどの市川笑也さんのお話にありましたように、「目は口ほどにものを言う」と言いまして、口元を見れば、その人が大体どのような表情をしているかが分かります。

 生理学で習う「ペンフィールドの小人」という図があります(図1)。脳のどのくらいの部分でどこを支配しているかを示すものですが、唇や舌の感覚には、脳のかなり大きな部分が関わっています。人が生活するうえで、口が非常に重要な器官の一つであることを示していると言えます。

 例えば、サメの歯は、一生のうちに1万回生え変わると言われています。ゾウの歯は5回です。しかし、人間の歯は、一生のうち1回だけ、それも子どものときに生え変わるだけです。それだけ永久歯が大切だということです。

【1.L8020の発見】

① 発見のきっかけ

 私の専門は歯科補綴学で、臨床的には、歯を削って冠をかぶせる、ブリッジを入れる、インプラントするというのが専門です。研究領域では、デンチャープラークという入れ歯のばい菌の汚れがどうしてできるのか、口の中のばい菌(微生物)の集合体であるバイオフィルムがどのようにしてできるのかという研究をしていました。バイオフィルムが微生物同士の相互作用によってできることや、材料表面の性状や性質、人の体液成分などの影響によってでき方が変わることなどを調べていました。

 その一方で、勤めていた医局から、身体障がい者や精神障がい者の施設に頻繁に出張していました。そういう障がいのある方はセルフコントロールに問題があり、そのために十分な歯磨きができません。そこで、通常は治療後10年20年もつはずのものが、2~3年で悪くなったりします。そういう人達のために、口の中のバイオフィルムをコントロールできないだろうかと考えました。

 口の中に物を入れると、比較的早く歯に菌が付着します。その後菌は増殖し、定着していきます。そのうえでバイオフィルムを作ります。どのぐらいの時間でどのくらい細菌が増えるのかというスピードは、いわゆるダブリングといって、かなり速いです。1時間で1個の細菌が2個になるとすると、6時間で64倍、10時間で1,024倍、12時間で4,096倍になります(図2~5)。そして、バイオフィルムのようなものができてしまうと、上から薬液をかけても中まで薬液が浸透しないので、表面の菌は死んでも内部の菌が生き残り、ほぼ効果を得られないことになります。



 そこで、菌を持続的に抑制する方法はないものかと考えました。

 まず、微生物同士で戦わせたらどうかというアイディアが浮かびました。虫歯も歯周病もいずれも感染症です。感染症は、宿主である人間の体の免疫力と細菌の感染力のバランスに関わっています。体力が弱るとバランスが崩れて、菌が増殖しやすくなって、感染症を発症します(図6)。例えば、歯周病は慢性の炎症ですが、お盆やゴールデンウィークの連休に出かけて目一杯いろんなことをすると、体力が落ちてばい菌の方が強くなって歯ぐきが腫れたりします。そういうときには、局所消毒薬で洗ったり、抗生物質を投与したりして、菌の力を弱めます。そのうちに体力が戻って治るということになるわけです。

 こういう抗生物質や消毒薬のことを英語でアンチバイオティクスと言いますが、これの反語がプロバイオティクスです。この言葉は、最近よく使われるので、皆さんもデパートの地下とかコンビニで見たことがあるかもしれません。もともと原生生物の共生関係を論じた言葉ですが、1989年にイギリスの微生物生態学者ロイ・フーラー博士によって「腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主に有益な作用をもたらす生きた微生物」と定義され、WHOのガイドラインでもそのように使われています。具体的には、乳酸菌などを指します。

 我々の口の中にもフローラがあります。フローラとはお花畑という意味ですが、医学的には細菌叢のことを言います。腸内フローラに対して、オーラルフローラと呼びます。700~800種類の菌で構成されています。菌は、例えば入れ歯を入れると、いろいろな種類の菌がいっぺんに付着、増殖するというものではなく、だんだんに種類が増えていくという増え方をします(図7)。いろいろな菌は、そういうプラークの中で縄張り争いをしています。ここに非常に強いいい菌(乳酸菌)を入れたら、虫歯菌や歯周病菌が増えなくなるのではないかと考えました。

 先ほど申し上げた精神障がい者施設で診察していたとき、歯磨きしなくても虫歯にならない人に出会いました。この患者さんは精神的に具合が悪くなると自己管理ができなくて、歯磨きができません。だから口の中の衛生状態は良くないのですが、虫歯は1本もありません。そこで、虫歯菌の増殖を抑制する乳酸菌がいるのではないかと考えました。

 しかし、虫歯をターゲットにするだけで良いのか?

 現在、日本人が歯を失う原因は、虫歯が32%、歯周病が42%です(図8)。歯周病は50歳ぐらいから増えて、70~80歳くらいまで多い状態が続きます。虫歯の方は、30歳代前半と60歳代のところに山があります(図9)。60歳代以降の虫歯は、歯周病で歯ぐきが下がって、そこが虫歯になるというもので、原因は歯周病にあり、30歳代の虫歯とは原因が異なります。

 ところで、虫歯と歯周病は歴史的にどちらが古い病気だと思いますか?

 国立感染症研究所口腔科学部長から鶴見大学歯学部の教授に移られた花田信弘先生によると、虫歯は弥生時代に始まった米食を原因としており、縄文人の人骨には虫歯はありません。しかし、歯周病の跡はあると言います。

 問題は、古い感染症ほど制圧しにくいということです。

 口内細菌の増殖を抑制する乳酸菌はないかと考えたとき、虫歯だけでなく歯周病もターゲットとして考えていました。


② 虫歯・歯周病を抑制する乳酸菌

 先ほど申し上げましたように、虫歯のない人13人を探し出して、その口腔内から42菌株の乳酸菌を分離しました。その中で、歯周病菌に効果のあるもの、虫歯菌に効果が高いもの、カンジダ菌にも効くものと絞り込んでいきました。

 その結果、KO3株にたどり着き(図10)、これをL8020 乳酸菌と名づけました。80歳でも20本の歯を残すという意味です。

 この菌を使ってヨーグルトを作ってくれる会社を探しました。ヨーグルトを作ろうと考えたのは、学生時代に予防歯科学で、歯に悪いのはヨーグルト、チョコレート、ビスケットで、それは甘味物質が長時間口の中に残りやすいからだと習ったので、口の中に長時間残るなら、いい菌を使ってヨーグルトを作れば効果が長く続くだろうと考えたからです。

 L8020の入ったヨーグルトは、四国乳業が作ってくれました。

 そこで、L8020 入りのヨーグルトとL8020の入っていないヨーグルト(プラセボヨーグルト)の2種類を使って、50人に毎日お昼に1個ずつ2週間程食べてもらうという実験をしました。2週間後に入れ替わってもらうということもしました(図11)。食べる人、試験する人には、どちらを食べているか分からないようにしました。その結果、虫歯菌(ミュータンス菌)を80%減少させる効果があることが分かりました(図12)。歯周病菌の代表的な4種についても、非常に効果的に減らすことができることも分かりました(図13)。

 これを論文にするとき、初めてL8020という名前を使いました。地元の5局のテレビ局を呼んで記者発表もやり、また『ひるおび!』というテレビ番組でも取り上げてもらいました。1年前のことです。


③ L8020の研究と利用

 L8020については、さらに研究を進め、この菌が抗菌物質を出して虫歯菌や歯周病菌を抑制しているのではないかという仮説を立てました。遺伝子解析などによって、L8020の出すKog1、Kog2と名づけた抗菌物質を発見し、これらの物質がカンジダ菌などの細菌を破壊することを証明しました。

 さて、歯周病というのは何が問題なのでしょうか? 

 歯周病は、末期になると腫れて痛いです。歯周病はサイレントディジーズと言われていて、自覚症状が出るまで、ずっと無症状で進行していきます。さらに、歯周病のLPSという毒素は全身に回って、様々な疾患を生み出します。LPSが膵臓に作用すると2型糖尿病、脂肪細胞に作用すると動脈硬化症、肝臓に作用すると非アルコール性肝炎を発症させます。また、アルツハイマー型の認知症を亢進させたり、膵がんのリスクを高めるという研究も報告されています(図14)。また妊娠中の女性については、低体重出産や切迫流産のリスクを上げると言われています。

 L8020菌が出しているKog1という抗菌物質が歯周病菌のLPSを不活性化することも発見しました。

 Kog1という物質はL8020 菌が育つときに自然にヨーグルトの中に出るものなので、L8020入りのヨーグルトを食べることによって、歯周病菌の毒素を抑えるとともに、歯周病連鎖による全身疾患も予防できるわけです。

 そこで、生菌を利用したヨーグルトだけでなく、代謝物を利用することでL8020を凝縮し、抗菌効果を上げることを考えました。それが、L8020入りのタブレットやマウスウォッシュや歯磨き剤などです。フジッコの作ったデンタフローラというタブレットは、TVコマーシャルが流されており、私も出演しています。

 L8020チョコレートというのも作られています。チョコレートで虫歯予防というのはちょっと信じられな

いような発想ですが、このチョコレートは実際にヒト試験をやって、歯周病を改善することが証明されています。その他、高齢の犬猫の口臭予防のためのわんサプリ・にゃんサプリ、あるいは犬猫用の歯磨き専用ガムなんていうものも作られています。

 ここまでお話ししてきたことをうまくまとめて紹介してくれたのが、『ホンマでっか!?』というTV番組で

す。2016年5月29日にオンエアになりました。この番組の放映直後のYahoo!の検索ランキングでL8020が急上昇ワード1位になりました。

【2.Etakの開発】

① Etakの構造と機能

 それでは続いて、Etakという物質を作った研究についてお話ししましょう。オクタデシルジメチル酸トリエトキシルプロピルアンモニウムクロライドという非常に長い名前の物質で、その特徴的な部分の頭文字を取ってEtakと呼ぶことにしました。

 我々歯科医は、治療中に口の中の消毒薬を使います。図15でいうと、緑色の部分が消毒成分です。これを口の中のいろいろなものにくっつける役割をするのが、黄色い部分です。この2つが一緒になったのがEtakです。つまり、消毒成分と接着成分を一体化させることによって、消毒の効果を長持ちさせるというものです。物の表面にこの液をかけてやると、消毒薬が共有結合という形で固定化できるようになり、抗菌加工ができるようになります。

 このEtakという物質の開発目的は、歯を抗菌加工することです。抗菌加工によって虫歯菌や歯周病菌を抑制しようと考えたわけです。当時は、インプラント周囲炎というのが問題になっていて、これが起こるとインプラントは失敗というようなことが言われていました。インプラントの周囲組織で細菌感染が起こることで発生する疾患ですから、Etakを使って抗菌加工すれば、そういう問題を防げると考えたのです。しかし、この物質が開発された後も、歯科系の企業は全く興味を示しませんでした。

 そこで、タオルの洗濯に使って実験してみました。黄色ブドウ球菌と大腸菌とセレウス菌を1万個ぐらいつけた未処理のタオル、JIS規格のタオル、Etakで洗濯したタオルを比べると、前2者では菌が18万個くらいまで増えますが、Etakで処理したタオルでは菌を検出しなくなるのです(図16)。

 このデータに関心を持ってくれたのが倉敷紡績で、何回洗濯しても抗菌効果が変わらない(実際クラボウは50回洗濯するという実験をして、効果に変化がないことを証明しています)ので、SEK((一社)繊維評価技術協議会)の赤マーク(制菌加工を証明するもの)を取っています。

② Etakの抗菌加工・抗ウイルス加工性能

 その後2009年5月に、このEtakに関して、タイのチュラロンコン大学と広島大学のジョイントシンポジウムで発表して欲しいと言われました。ちょうど新型インフルエンザの流行時期で、タイに行って感染すると、帰国後に2週間拘束される恐れがありました。このことがきっかけになって、Etakの消毒薬部分である四級アンモニウム塩がインフルエンザウイルスなどのエンベロープウイルスを不活性化できるから、Etakを霧吹きに入れて噴霧するといろいろなものの表面を抗菌加工・抗ウイルス加工できるのではないかと考えました。

 実際にウイルス学の教室で試験してもらうと、20ppmの低濃度でトリインフルエンザウイルスに効くことが分かりました。トリインフルエンザウイルスを固定化したタオルやガラスの表面でも効果があることが分かり、また新型インフルエンザウイルスにも効くことが分かりました(図17、図18)。


 普通の消毒薬では、1回は消毒しますが、消毒効果が持続しませんから、後から飛沫がついて汚染されれば、それが接触感染の原因になります。Etakの場合は、消毒と同時に抗菌・抗ウイルス加工しますから、後から飛んできたウイルスも不活性化して、接触感染のリスクを下げることができます。イメージ的には、抗菌コート、抗菌バリアーができるという感じです(図19)。

 後からの感染に強いことは、いろいろな利用価値があります。例えば、ダイキン工業のエアコンフィルターで、次亜塩素酸で消毒したものでも、1週間使えば、かなりカビで汚れます。しかし、Etakを1回噴霧しておくと、後から発生するカビの量が非常に減り、2回噴霧すると、全くカビが生えなくなるという効果が証明されています。

 Etakに関しては、2009年に広島大学の東京オフィスで記者発表しました。人生初の記者会見でした。NHKの全国放送とTBS系のローカル放送で放映され、後日、日テレなどでも取り上げてもらいました。Etakを含ませた白衣が病院で使われていること、広島の中学校でEtakを使って掃除したところ、2ヶ月間で新型インフルエンザに感染する生徒が減ったことなどを紹介してもらいました。

 利用範囲は非常に広いと思います。クラボウが病院の白衣を、ベネッセが赤ちゃん用のタオル、ケープ、ベビーカーカバーなど、ディノスから寝具一式、ミキハウスから赤ちゃん用の肌着、子供用のマスクなどが発売されています。エーザイから、マスク用の抗菌スプレー、テーブルや家具などにも使える一般用の抗菌スプレーも出されています。エーザイは「Etak抗菌化スプレー」というブランド化も図っています。TVコマーシャルも知られています。

③ ウイルス感染とEtak

 ところで、インフルエンザの感染経路は、接触感染と飛沫感染と言われています。今回の新型コロナウイルスの感染経路は、飛沫感染が多いようですが、接触感染もあります。また、感染経路不明という患者さんもたくさんおられます。コロナウイルスの特徴として、いろいろなものの表面に長く生存します。例えば、ボール紙の表面で24時間、プラスチックやステンレスの表面で2~3日、サージカルマスクの表面でも7日間。それだけの期間、感染力を持ち続けているわけです。従って、公共交通機関の座席やつり革、部屋のドアノブ、会議室の机などのようなものが、接触感染の原因になる可能性も十分あります。コロナウイルスは、人の皮膚表面では、9時間生存すると言われています。例えば、朝、手にコロナウイルスがつくと、夜、家に帰るまでずっと生存しているということです。そういうときにEtakを使うと、朝、手につけたEtakの効果が、夜、家に帰るまで持続しています(図20)。

 実際、ある学校に協力してもらって、Etakのウェットティッシュで朝1回手を拭いた群と拭かなかった群を比較したところ、インフルエンザ発症率が約半分に減ることが分かりました(図21)。


 ウイルス感染は、ウイルスの粘膜への接触によって起こります。例えば、手についたウイルスが口や鼻の粘膜から感染します。これを接触感染と言います。エアロゾルになったウイルスが鼻や気道の粘膜から感染するのを飛沫感染と呼びます。

 マスクは感染予防のために非常に優れたもので、マスクをすることによって、飛沫量を減らして飛沫感染を減らすだけでなく、口や鼻への接触を減らすことで、接触感染のリスクも減少させます。しかし、マスク表面にはウイルスが付着します。Etakのマスク用スプレーは、マスクの内側にも外側にも噴霧して欲しいです。内側に噴きつけるのは、自分の唾などで雑菌が発生し、それが増えて悪臭を発生させるのですが、Etakはそれを防ぐことができます。マスクの外側への噴霧で、マスク表面でのウイルスの増殖を抑制します。その際、気をつけてほしいのは、マスクを外したら、その手を必ず洗うということです。そうしないと、手についたウイルスが広がっていきます。ですから、手で触るようなところにはEtakを使うのが良いのです。エレベーターのボタンとかドアノブなどです。「触るものにはEtak」というTVコマーシャルもやっています。

 Etakをガラスシャーレの表面に塗布すると、47日後でも効果があること、ウイルスの量を接触直後で30分の1に、30分後には100分の1に減らすことが分かっています(図22)。Etakの効果は、ウイルスのエンベロープを壊すことで生じるのですが、エンベロープの中のRNAもかなりのスピードで破壊します。その破壊のメカニズムは、現在研究中です。

 Etakを広島大学や広島県に寄贈し、広島では、電車やバスはEtakで毎日清掃されています。西武鉄道のドラえもん電車の座席には、Etakを繊維表面に加工した「CLEANSE」というクラボウのシートが使われています。この研究では、平成25年に文部科学大臣表彰を受けました。

④ 新型コロナウイルス感染症とEtak

 新型コロナウイルス感染症では、新規感染者が何名とか、重症者の割合が何パーセントとかいう数字が毎日公表されています。このような疫学調査の数字は、多人数の集団に関しての統計的な発生率なので、個々人の中で誰が感染するのかということとは関係がありません。ロシアンルーレットで、当たる確率は低くても1発目で当たる人がいるように、いつでも誰でも感染する可能性があります。

 ここで重要なのは体調管理です。先ほどもお話ししましたように、宿主の免疫力とウイルスの感染力のバランスが問題です。ウイルスの感染力とは、個々のウイルスが持っている毒力とウイルスの数で、これを感染量と言います。宿主の免疫力と感染量のバランスがとれていれば、感染は起こりません(図23)。しかし、疲れたり、ストレスが多かったりして、宿主の免疫力が落ちているようなときは、同じウイルスに暴露されても、同じ量のウイルスであっても、感染しやすくなります。

 普段は感染しない、発症しない疾患でも、体力がものすごく落ちたとき、免疫力が免疫不全な状態に近いぐらい落ちたときに発症することを日和見感染と言います。例えば、帯状疱疹などがそうですが、口腔関係でいうと、ヘルペス、口角炎などです。歯周病も同じです。普段歯磨きで出血しないのに、体力が落ちると、出血したり、ムズムズしたりすることがあります。そのようなときは外出しない、飲み会に行かないで休養するなど、自分でコントロールするのが良いと思います。体力が落ちている指標は、口の周りに出ます。物をかんだときに歯が重い感じがするというようなことも、普段は体力で抑えられている歯の根の病気が、体力が落ちることで出てきている可能性があります。

 広島ならではの生ガキの話をすると、1個2個食べても下痢はしませんが、人によって20個30個食べる人がいます。これは当たります。これと同じように、ウイルスも少量に暴露されている分にはいいのですが、大量のウイルスに暴露されれば感染します。身の回りのウイルス量を減らすのが肝要なのです。

 身の回りのウイルスを減らすのが、うがい、手洗いです。鼻や口に触る前に手を洗ってウイルスを減らす、うがいして口の中に入ったウイルスを減らすわけです。これが日常生活での大切な対策です。さらに、手につくウイルスを減らすには、Etakを使うのがいいと思います(図24)。

 新型コロナウイルスの厄介なのは、肺に感染することです。2009年の新型インフルエンザウイルスは、上気道への感染なので、自力で治ります。肺に感染して肺炎を起こすのは、99%以上が細菌です。これには抗生物質が効きます。ところが、ウイルス性肺炎というのは、抗ウイルス薬がないと治せません。だから重症化するとエクモのようなものを使わないといけなくなります。抗ウイルス薬が開発されるまで、現在のような自粛生活を繰り返さなければならないということになると思います。

 ウイルスの感染力を減らすのが、マスク、うがい、手洗い、触るところにEtakだとすると、宿主の免疫力を高めるのがワクチンです。新型コロナウイルス感染症に関しては、いくつかのワクチンが出ており、有効率が高いです。有効率とは、ワクチンを打った人が打たなかった人に比べて何%発症が減ったかを表す数字です。

 インフルエンザワクチンの有効率が50%程度なので、新型コロナウイルスのワクチンは有効率が非常に高いと言えます(図25)。

 最近、変異株というのが出てきました。デルタ株というのが猛威を振るっています。ワクチンの効果には、感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果がありますが、デルタ株に対する発症予防効果は、ファイザー社のワクチンが88%、アストラゼネカ社のものが67%(いずれも2回接種後)、感染予防効果では、ファイザー社のものが42%、モデルナ社のものが76%、入院予防効果は、いずれも80%程度です。ファイザー社の方がモデルナ社のものより劣っているように見えますが、これは、ファイザー社の方が先に打っているから抗体価が下がっている人が多いというのが理由ではないかと思います。ワクチンの抗体価は下がってくるものなので、やはり3回目の接種(ブースター接種)が必要だと思います。

 ワクチンの接種が進んで、行動規制が緩やかになってきました。ウイルスに対してはマスク、うがい、手洗い、Etak、我が身を守るにはワクチンということで、接種できる方はできるだけ接種されるのがよろしいかと思います。

【おわりに】

 私はもともと障がい者の口の中を何とかしたいという動機から、いまお話ししてきたような研究を始めました。高齢化がすごいスピードで進む中で、口腔に関する研究は、非常に重要になっています。1963年に153人しかいなかった100歳以上の方が、2018年には約7万人になっています。このような高齢化の中で、「健康寿命」は「健口寿命」と言われるほど、お口が健康生活を支えるものになっています。病は口からも入ってきます。身の回りのケアにEtak、お口のケアにL8020を役立てていただければ幸いです。 

 美人の条件に「明眸皓歯」(めいぼうこうし)というのがあります。瞳が明るくて、歯が白くて美しいことを言います。例えば、前歯がなくなると、すごく間の抜けた顔になります。そして、人前で笑うことが少なくなります。しゃべっても聞き取りにくいです。やはり歯は全部そろっているのが一番です。楽しい生活は、人としゃべって、笑って、おいしいものを食べることですが、これはすべて口に関わることです。楽しい生活を送るために、皆さん、歯を大切にしていただければと思います。

 ご清聴ありがとうございました。

 

質問1:L8020のヨーグルトは、フッ素化合物などと併用してもいいのでしょうか?

二川:L8020のヨーグルトやタブレットをフッ素やキシリトールと併用しても、問題はありません。フッ素とキシリトールは、虫歯予防に関して非常に効果が高いものです。虫歯は、虫歯菌が作った酸で歯が溶けるものですが、フッ素は歯の耐酸性を強めます。キシリトールも、口の中の虫歯菌を減らす効果がありますから、どちらも併用して構いません。

 

質問2:L8020入りのヨーグルトの実験では、昼に1つ食べたということですが、夜食べて寝るというのはどうなんでしょうか?

二川:歯は酸で溶けるのですが、唾液には酸を中和して虫歯を防ぐ効果があります。しかし、夜は唾液の分泌が非常に少なくなるので、虫歯菌が増えやすい状態になっています。また、酸性のものを取り込んで寝ると、虫歯や歯周病だけでなく、酸食傷という歯のエナメル質が溶けるような状態が引き起こされます。従って、寝る前にはマウスウォッシュや歯磨きがお勧めです。ヨーグルトは朝か昼に食べるのがいいと思います。

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